南アジアモンスーンの発達過程と亜熱帯砂漠の形成

夏期のモンスーンは亜熱帯大陸に貴重な降水をもたらし、南アジア・東アジアの社 会・経済にも影響を及ぼす重要な気候現象である。教科書では、夏モンスーンは太陽 放射の南北差による海陸温度差に駆動されるとあるが、現実のモンスーンには、この ような簡単な海陸風モデルでは説明できない基本的な特徴がある。例えば、インド亜 大陸では4月始めから、日平均気温がインド洋水温(30度以下)より高くなり、5月に は日最高気温がしばしば50度近くになる。このような大きな海陸温度差にもかかわら ず、モンスーンがインド亜大陸を訪れるのは1ヶ月以上も後の6月のことである。しか も、このモンスーンの開始は雲一つない青空から、一気に大雨が降り出すという突然 なものである。強制力の太陽放射がゆっくりと増加していくのに対し、なぜ南アジア モンスーンが1ヶ月以上の遅れをとって突然開始するのかは、モンスーン気象学の長年 の謎でした。我々は大気大循環モデルを用いて簡単な海陸分布の下で実験し、このよ うな急なモンスーン開始の再現に成功した。また、モデル結果の解析から、地球の自 転効果がモンスーンのこのような奇妙な振る舞いを解く鍵になっていることが分かっ た。

砂漠(サハラ、アラビア)は亜熱帯大陸上に広がるもう一つ重要な気候帯である。 この亜熱帯砂漠の形成は従来大気の南北循環であるハドレ─循環から説明することが 多いが、アジア大陸の西側に広がる湿潤モンスーン気候を見れば、このようなハドレ ─循環説が正しくないことが分かる。モンスーンはその開始のような時間的に不連続 の側面があるが、太陽放射より長い時間スケールも持っている。季節風、降水と土壌 水分の相互作用によって、モンスーンの北進が太陽より遥かに遅く、降水帯がサハラ のような緯度に到達する前に、南下する太陽によって降水帯が南へ引き戻される。太 陽放射を夏至に固定した場合、降水帯がサハラまで北上するという実験結果からもモ ンスーンの季節時間発展が亜熱帯砂漠の形成に重要であることが示唆された。今から1 万2千年前、夏至の太陽放射は現在よりも高かった。この太陽放射の増加がアフリカモ ンスーンの北進を加速し、6千年前まで続いた緑のサハラをもたらしたと考えられる。

詳しくは

Xie, S.-P. and N. Saiki, 1999: Abrupt onset and slow seasonal evolution of summer monsoon in an idealized GCM simulation. J. Meteorol. Soc. Japan, 8月号掲載 (77, 949-968).

尚、本研究の遂行に当たり、文部省科学研究費およびアサヒビール科学振興財団の研究助成を受けています。